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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)292号 判決

原告 立飛企業株式会社 ほか一名

被告 住宅・都市整備公団

代理人 中垣内健冶 廣戸芳彦 ほか四名

主文

一  本件各訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告立飛企業株式会社に対しては別紙物件目録中第一記載の土地につき、原告新立川航空機株式会社に対しては同目録中第二記載の土地につき、いずれも立川都市計画事業立川基地跡地関連地区土地区画整理事業(平成七年五月一五日都市計画決定、東京都告示第六二三号)を施行することができないことを確認する。

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、立川都市計画事業立川基地跡地関連地区土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行地区内に土地を有する原告らが、当該施行地区は土地区画整理法(以下「法」という。)三条の二第二項一号に規定する区域に該当しないから、被告は当該区域の土地区画整理事業の施行者にはなり得ないのに、現に建設大臣の認可を得て本件事業の施行に着手し、原告らの権利を侵害するおそれがあるとして、実質的当事者訴訟として、被告が本件事業の施行をすることができないことの確認を求めるものである。

二  原告らが主張する前提事実

1  原告立飛企業株式会社は別紙物件目録中第一記載の土地を、原告新立川航空機株式会社は同目録中第二記載の土地を所有している。

2  東京都は、平成七年五月一五日、東京都告示第六二三号をもって、本件事業を決定した。

3  建設大臣は、平成九年三月三一日、住宅・都市整備公団法(以下「公団法」という。)四一条により、被告を施行者とする本件事業に係る施行規程及び事業計画を認可した(以下「本件認可」という。)。

第三争点(本件訴えの適法性)に関する当事者の主張

一  原告ら

1  本件事業では被告を施行者と定めていない。本件事業の施行区域は、法三条の二第二項一号に規定する「既に市街地を形成している区域」には該当しないから、建設大臣が本件認可において同項各号列記以外の部分に規定する土地区画整理事業の必要性があると認めたとしても、同項により被告が施行者となる余地はない。

2  本件認可が抗告訴訟の対象となる処分でないとする以上、公定力もないから、その取消しがなくとも、原告らはその効力がないことを主張することができる。

3  しかし、本件認可により、被告が本件認可に依拠して本件事業の施行に関する公権力を行使するという法律関係が成立し、被告が本件事業の施行に係る処分であるとして原告らの権利を侵害する所為に及ぶことが予想される。

したがって、原告らは、本件認可によって成立した法律関係に基づく被告の権利が存しないことの確認を求めることができる。

二  被告

本件認可により、被告は本件事業の施行権を付与され、事業遂行上の公権力を行使することができるから、被告と原告らとの関係は公法関係の側面を有する。しかし、被告が本件事業の施行において行うであろう処分(公団法四七条一項、法七二条一項、七七条一項、八一条一項)が原告らの権利を侵害するときは、原告らはこれらの各個の処分に対して、抗告訴訟を提起すべきものであるから、被告の施行権の有無の一般的確認を求める原告らの本件各訴えは、争訟の成熟性を欠く不適法なものというべきである。

第四当裁判所の判断

一  法及び公団法の規定について

被告は、大都市地域等で良好な居住性能・居住環境を有する集団住宅及び宅地の大規模な供給を行うとともに、その地域で健全な市街地に造成し、又は再開発するために市街地開発事業等を行い、都市公園の整備を行うこと等により、国民生活の安定と福祉の増進に寄与することを目的として(公団法一条)、政府及び地方公共団体からの出資により設立された法人であり(公団法二条、四条)、右目的を達成するために、法による土地区画整理事業を行うものとされている(公団法二九条一項六号)。また、被告の管理委員会の委員、総裁、監事の任命権は建設大臣に属する(公団法一一条一項、二〇条一項)。そして、被告は、建設大臣が被告に施行させる必要があると認める場合には、都市計画に定められた土地区画整理事業の施行区域(法二条八項)を対象とする土地区画整理事業を施行することができ(法三条の二第一、二項)、この場合、被告を市町村長とみなして市町村長を施行者とする土地区画整理事業に関する法の規定を適用することとされている(公団法四〇条、四七条)。

右各規定によれば、被告は、その必要性についての建設大臣の監督の下に、施行区域の土地区画整理事業を施行することができるのであって、この監督上の判断は施行規程及び事業計画に対する建設大臣の認可(公団法四一条一項)において行われるものと解することができる。

したがって、仮に本件認可に、法三条の二第一、二項に規定する必要性の判断の誤りがあるとしても、被告の施行者たる地位ひいては行政庁性が否定されるものではないというべきである。

二  本件訴えの適否

右によれば、被告が本件認可を得て本件事業の施行区域において本件事業を施行し、その施行地区内に存する土地につき権利を有する原告らがこれを受忍する関係は、公法上の法律関係ということができる。

しかし、具体的かつ現実的な争訟の解決を目的とする訴訟制度の下においては、当該法律関係において何らかの不利益を受けるおそれがあるというだけで、事前に当該法律関係の存否の確認を求めることが当然に許されるものではなく、公法上の権利義務の存否を争う訴訟についても、右公法上の義務違反の効果として将来何らかの不利益処分を受けるおそれがあるというだけでは足りず、当該不利益を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に義務の存否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがあるなど、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合に限り、その適法性が認められるのである。

そして、これを本件についてみると、本件事業の施行により原告らの権利が侵害又は制限されたときは、原告らはその各個の処分に対して抗告訴訟を提起することができるのであるから、これらの処分のない状態で、一般的に、被告の施行権限の存否の確認を求める訴えは、いまだその確認を求める法律上の利益がないものというべきである。

三  結論

以上によれば、本件訴えは不適法なものというべきであるから、却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 富越和厚 團藤丈士 水谷里枝子)

物件目録〈略〉

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